●なぜ私が訴えられなければならないのか!

――怒りの陳述 法廷に響く

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報告集会で決意を語る市東孝雄さん

 2月19日、千葉地裁仮庁舎405号法廷で市東さんの耕作権裁判第1回口頭弁論が開かれました。
この中で市東さんは「私は空港会社の不正を告発するためにこの場に臨んでいる」と不当な訴えに対する怒りを込めて、意見陳述をおこないました。さらに弁護団が提訴された畑の位置についての求釈明をおこない、法をねじ曲げた土地取り上げと徹底的に闘う姿勢を明らかにしました。
 裁判の後におこなわれた報告集会には、傍聴に駆けつけていただいた80余名の皆さんが参加。
 市東さん本人のあいさつ(ビデオ・wmvファイル/3.71MB)、反対同盟の闘う決意に続いて、駆けつけてくれた人々からの発言をいただきました。


裁判傍聴のために(pdfファイル154KB)
傍聴に集まった人に配布した解説
画像をクリック

 まず、当初からこの理不尽な農地取り上げに反対し、市東さんを支援する輪を広げてくれている「市東さんの農地取り上げに反対する会」から吉川ひろし県議が発言。「この土地取り上げは、誰が考えてもおかしいこと。こんな事をまかり通らせてはならない」「これはもう市東さん一人の問題ではない。広く多くの人に知らしめていこう」と述べられました。
 続いて関西実行委員会から永井満さん、動労千葉から滝口誠さんが「もう一度三里塚の闘いを全国に広げていこう」と力強くアピールされました。さらには市東さんの野菜を食べている消費者の方、地元「成田の平和を守る市民の会」の伊藤全明さん、同じく農業を営む農民の立場からと、幅広い方々から「見過ごすことのできない問題」としてご意見をいただきました。
 次回の公判は4月23日(月)です。
 市東さんの農地取り上げに反対する声を、もう一回りも二回りも大きく広げていきたいと思います。皆さん、ぜひこの反対の輪に加わって下さい。

 以下に市東さんの陳述書を掲載します。

*************

陳 述 書

2007年2月19日

千葉地方裁判所民事第2部合議A係 御中

成田市天神峰63番地
   市東孝雄

  

 まず、自分がこうした場に呼び出されていることに強い憤りを感じています。私が耕作している畑は、祖父の代の開墾から90年間耕しており、これまで一度も否認されたことはなく、「不法耕作」だと言われる筋合いのものではありません。「明け渡し」を求めて裁判に訴える空港会社の不当に抗議するために、私はこの場に立ちました。
 また、空港会社が行った契約解除許可の申請について、知事がまともに調べもせず許可を決定したことも怒りに耐えません。空港会社は公団時代から数々の違法を重ねてきましたが、今回も旧地主からの買収時期を偽り、決定を騙(だま)し取った事実があります。国と空港会社と千葉県は、耕作者を守るための法律である農地法を違法に使って、私から強引に農地を取り上げようとしています。私はその不正を告発するためにこの場に臨んでいることを、まず明らかにしたいと思います。

●大正期の開墾から3代90年間耕した農地
 私の耕作地は、戦後の農地改革のはるか以前から耕してきた小作地です。本来、農地改革の時に自作地になるべきものでした。しかし諸事情で解放されなかった小作地については、農地法で自作地と同様に耕作権が保護されてきました。親子3代90年間休むことなく耕してきた畑が農地法によって奪い取られるということが、私には、どうしても納得できません。
 空港会社が地主の藤崎政吉氏から問題の畑を買い上げたことを私が知ったのは、4年前の新聞報道でした。しかも売買はその時から15年もさかのぼる1988年4月に行われていたのです。この事実が発覚するまで実に15年間、空港公団は元の地主の藤崎氏と示し合わせて売買の事実を隠し続け、登記もせず、地代も元の地主に受け取らせてきたのです。このようなことがどうして許されるでしょうか?
小作地の売買についてはまず耕作者本人が買い受けることを、農地法は定めています。第三者が買い取る場合は、耕作している者の同意が必要です。成田空港用地については、特例として県知事の農地転用許可はいらないことになっているそうですが、第三者に小作地を売り渡すにあたって耕作者に同意を得るべきことと、農地転用許可がいらないこととは別の問題です。そうでなければ、耕作者の権利がまったく保障されないことになります。
 父も私も知らないうちに、空港用地にするために畑が売られ、ある日突然、空港会社が地主だと名乗り出て、「契約解除だ」「不法耕作だ」「明け渡せ」と言われることなど、絶対に納得できません。このような横暴は戦前の地主制度の悪しき習わしとして、農地法で厳しく禁じられてきたことです。
 しかも空港会社は、知事に対して賃貸借契約の解除を申請するにあたって、売買時期を2003年12月24日だと偽わり、このことから発生するさまざまな違法問題に蓋をして、知事の決定をいわば騙しとっています。あまりの不当に、怒りを抑えることができません。

●今耕している農地が賃借地のすべてです
 しかも問題にされている畑の位置の特定がまったくデタラメです。空港会社が一方的に定めた境界は、元の地主の藤崎氏が空港会社に畑を売り渡した後で、父の立ち会いもなく、基準点もないままに、勝手に作った図面をもとにしています。それは実際とかけ離れたものであり、今に至るまで一度も耕作していない土地も含まれていて、全くのデタラメとしか言いようがありません。
問題の耕作地については、現在、私が耕作している畑が藤崎政吉氏から借りた賃借地のすべてです。これまで堂々と耕し続けてきました。藤崎氏も空港公団も3年前まで、一度も異議を唱えたことはありません。私にも、父にも、藤崎氏から土地を賃借しているという意識はありますが、不法に耕しているという意識はまったくありません。
「不法占拠」や「不法耕作」はまったく不当な言い掛かりであり、耕作地のすべてを取り上げるための虚偽の暴言としか言いようがありません。

●かけがえのない農地を潰す農業政策
 ところで本件は、NAAが賃貸借契約の解除申請を行い、それを成田市農業委員会が受理して知事に送達し、知事が請求を許可したことで発生しています。
 私が不当な賃貸借契約解除に抗議して、県農業会議の審議を傍聴した時、県の農地課の役人は、「1億8000万円は農業収入の150年分に相当するから解除申請を許可すべき」と報告しました。
私は怒りに身が震えました。農業・農民を守る立場の役人が、金さえ出せば農民の命である農地を取り上げてもいいなどと、どうして言えるのか。精魂込めて作ったかけがえのない農地で農業を続けたいという希望は、まったく彼らには通用しないのです。農水大臣はこれと同じ理由で、不服審査請求を却下しました。日本の農政を「亡国農業政策」と批判する人がいますが、まさにその通りだと思います。
 農地はいったん破壊されたら元に戻りません。1960年(昭和35年)には609万ヘクタールだった日本の農耕地は、2006年(平成18年)には、467万ヘクタールへと激減しました。国は新農業基本法で「これ以上の減少は食料生産の危険水準」だと宣言しましたが、維持すべき最低線とした470万ヘクタールをすでに切っています。財界は「2015年までに300万農家を14万に」と、農家つぶしを叫んでいます。
 私は農業に誇りをもっています。生産者と消費者でつくる会の一員として、本格的な有機農業と産地直送を始めて以降、延べ3000軒以上の消費者宅に野菜を届けてきました。有機農業は土作りがすべてです。畑を守るということは、土壌微生物が生息できる豊かな土を毎日の作業を通して作り続けることを言うのです。生殖異常や免疫異常を引き起こす殺虫剤、殺菌剤、除草剤などの農薬は決して使いません。この考えに基づいて、長い時間をかけて畑はつくられてきたのです。そうして作られる作物が、多くの人々の支えとなっていることに私は誇りを感じています。
 農地と農業はかけがえのないものであり、私たちの命です。私の農地問題の背景には、このような農業切りすての実態があることもこの場を通して訴えたいと思います。

●収用法失効の果ての農地法による農地取り上げ
空港会社は契約解除申請の理由に、「誘導路の利便性の向上」をあげていますが、この「へ」の字に曲がった誘導路は空港公団が納得づくで建設したものでした。計画の欠陥が指摘されながらも、空港公団は、運用上問題がないと力説して大臣の認可を受けたのです。
 ところが「利便性が悪いから真っ直ぐにする」と言い、それを理由に農地を取り上げるとは、まともな話ではありません。
 今回の北延伸計画でも、東峰地区にとってかけがえのない森を潰し、迷路のような誘導路を計画するなど、住民無視の限りを尽くしています。成田クリーンパークの違法な埋め立てや空港北部住民の騒音地獄など、計画はじつに無謀で行き当たりばったりです。
 このような不合理な計画に耕作権をはく奪されることは不当です。転用許可の基準すら満たしていません。
さらに、私が強く訴えたいのは、土地収用法が失効した土地に対して、再度、これを取り上げることの不当です。
政府は「一切の強制的手段の放棄」を声明し、1993年6月に収用手続きの申請をすべて取り下げました。成田空港に係わる土地の強制収用の根拠はこれによってなくなりました。一度はまったく納得できない土地収用の当事者にされた者にとって、この取り下げが、どれほど大きな意味をもつかわかるでしょうか。
こうして平穏を得たはずの農地が、こともあろうに農地と農民を守るために制定された農地法ではく奪されようとしている。これは農地法の死を意味します。これほどの不正義はありません。国と空港会社は無法の限りをつくしています。私はこれをどうしても認めることができません。私の耕作権を奪うことは絶対に許されない。

●不当な訴えの棄却を求めます
私に「不法耕作」の事実はありません。空港会社はもちろん旧地主の藤崎氏も一度として耕したことがなく、わが家が3代90年間耕し続けてきた農地に対して、「不法耕作」と言い掛かりをつけ耕作権をはく奪する空港会社の不当な訴えを、棄却することを要求します。
以上をもって意見陳述とします。

  

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