●鈴木幸司さん宅での暗きょ排水作業に参加して(1)=投稿

思い出
 10年ぶりに水田の暗渠排水工事をはじめた。場所は元中郷公会堂(現在は空き地)前、鈴木謙太郎さん所有の水田2反5畝(25アール)である。24年前、ここは成田用水に反対する菱田反対同盟と権力・機動隊との激しい闘争現場だった。目を閉じれば、当時の激しい日々がよみがえる。すぐ側には激突の現場中郷十字路、少しはなれて天神橋、菱田集会場がある。あのころ、鈴木家は臨時の包帯所となり、延べ何百人もが治療を受けたものだ。

 天神橋脇にはその昔水門があり、天神様が乗る船が埋められている。この地区の水田開発は、千年前までさかのぼるのだ。もしかしたら平将門の一党が、このあたりを駆け抜けたかもしれない。その頃成田山は「平将門の乱」平定のための最前線基地だったのだから。
 菱田地区は強湿田である。水田は、深いところでひざ上までの深さがあり、誤ってもがくとどんどん沈んでゆく。暗渠排水工事により湿田を改良することは、農民として当然の要求だった。政府・公団はこれを利用し、水田改良か空港反対かの選択を迫ってきた。これが成田用水事業である。百数十戸の農民全員が苦悩した。反対運動を取るか、農業を取るか、農民として人生が問われたのだ。何日も深夜まで話し合った。「農民を食い物にした政府が憎い」反対運動を辞めた農民も、この思いは同じだった。
 菱田地区は用水事業受け入れを巡って分裂し、24年たった現在、鈴木家を含め2戸を残して移転。政府が実施した土地改良事業では、農業の未来を保障できなかったのである。そのおかげ?で天然記念物の「オオタカ」「アカモズ」が住み着いた。川には大きな鯉が泳ぎ、鮭が遡って来る。シラサギ、カモ、セキレイ・・などなど、自然が一杯だ。

米価ショック
 暗渠排水工事の話が出たのは、昨年の夏だった。工事の困難さを思うと「是非やりましょう」と快諾できない。回答を先延ばしにしているうちに秋になった。「米の買い取り価格は、一等米60キロ1万2000円」「米農家に衝撃走る。米農家は一挙に赤字経営に転落」これでは、日本の米作りは壊滅する。新聞やテレビの報道で、政府が本気で日本農業をつぶすつもりだとわかった。衝撃的な状況の中で、改めて、鈴木さんから暗渠排水工事の話がでた。
 「米を作っても金にならない状況の中で、大金をかけて工事をやるのですか?」
 「もちろんやるよ。農業にこそ将来があると思うんだ」
 これが、政府の農業つぶしに対する農民の回答だった。無数の「鈴木さん」が参院選挙で自民党を敗北に追い込み、阿部政権を打倒した。日本農民の底力、恐るべし!
 それでも、政府の農業つぶしは変わらない。「農林水産省は、生産目標を4.6%減、815万トンに設定」一層の生産調整圧力が、農家に加えられる。
 「米は、足りないんだよ」
 「えー?余ってるんじゃないんですか?」
 「世界のコメ生産量は、4億2090万トン。消費量は、4億2460万トンと勉強会の資料に載っていたよ。消費量の方が多いのさ。日本政府が、米の作付けをこのまま減らしていけばどうなる。金を出して外国から買ってくることなど出来なくなる。そしたら、日本は戦争して食料をとってくるのか?」
 「政府は戦争まで考えているんですか?日本農業をつぶす政策と戦争政策=改憲攻撃は、一体のものなんですね」
 「大げさに言えば、暗渠工事をやることは、鈴木家の(闘い続ける)意思表明さ。今年も(政府の農業つぶしに反対して)コメを作るぞということさ」(つづく)


排水する管を埋めるための溝を掘る作業

  

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