「強制執行は絶対に認められない」

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-市東さんが千葉地裁にNAAを提訴

 行訴・農地法裁判が最高裁で上告棄却され判決が確定したことに対して、市東孝雄さんと弁護団は、11月30日、千葉地裁に「請求異議の訴え」と「強制執行停止申立」を行いました。
 請求異議の訴えとは、「債務者が債務名義に記載された請求権の存在や内容について異議がある場合に、その債務名義による強制執行を許されないものとするために、債権者を被告として提起する訴訟」と言われます。
 つまり「行訴・農地法裁判での判決に基づく土地取り上げ強制執行は許されない」という新たな裁判を、成田空港会社(NAA)を被告として起こしたということです。
 千葉地裁で手続きを行ったあとの記者会見で市東さんは、「最高裁の上告棄却はたった2行で、100年耕してきたわが家の畑について、明け渡しの強制執行ができるというものです。絶対に認めることはできません。私は天神峰で一日でも長く農業を続けるという気持ちで、空港会社の不当な執行請求に対しては、あくまで闘う覚悟です。その思いで請求異議の訴えと執行停止申立を行いました」と表明しました。 

 この日、裁判所に提出した市東さんの陳述書を以下に掲載します。

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市東孝雄さんの陳述書

 10月25日、最高裁は私の上告を棄却し、成田空港会社による農地取り上げを認める決定を下しました。取り上げ対象とされる農地は、祖父市太郎が開墾し、父東市から私へと100年近く耕し続けてきた農地です。それが強制執行で一方的に取り上げられることについて、私はまったく納得できません。

 弁護人は請求異議を提起し強制執行の停止を申し立てています。私は、強制的な農地取り上げの対象とされている南台農地(南台41-8)と天神峰農地(天神峰78-2など)について、それがいかに私の農業と生活に不可欠であるかということ、強制執行が産直運動と消費者にとっても大変な問題となることを陳述し、裁判所に対しては執行の停止と異議の申立てを認めるように強く訴えたいと思います。


1)南台と天神峰農地の現況

 現在、南台の農地には、ニンニク(12畝(うね))、玉ネギ(10畝(うね))、白菜(20畝(うね))、ブロッコリー(13畝(うね))、キャベツ(8畝(うね))、里芋(4畝(うね))、春菊(2畝(うね))、カブ(2畝(うね))、長ネギ(13畝(うね))が収穫間近ないし生育中の状態にあります。
 また、収穫したサツマイモを、出荷のために土中の芋穴に保存しています。他に、定植したばかりの玉ネギ苗があります。
 天神峰の農地(家の前の畑)には、ラッキョウ(4畝(うね))、大根(2畝(うね))、ゴボウが植わっています。貯蔵庫には出荷のための冬瓜と玉ネギがあります。
 ハウスには、ここ数日のうちに定植する、そら豆とスナックエンドウの苗があります。収穫したショウガもあります。
 畑は一部、収穫後の空いたところがありますが、これは12月に定植するものや、春野菜(ホーレン草、小松菜、玉レタス、サニーレタス、キャベツなど)の定植、撒種のために耕耘したものです。(別添図と写真を参照)
 これらの作物は、毎週2回の通常配送と、これから注文が入る正月野菜のために育ててきた野菜であり、春に繋ぐ野菜です。
 空港会社が今回、私から取り上げようとしている農地は、私が現在耕している耕作面積の半分近くになります。私はこれまで2回陳述書を提出して訴えてきましたが、取り上げられれば、私の農業も生活もまったく成り立ちません。


2)私の農業と生活、産直の会

 取り上げ対象の畑は、長年続けてきた有機農法の農地です。東峰地区の萩原富夫さんと共同して産地直送を行っており、主に千葉市と東京の消費者に直送しています。ほかに宅配業者にお願いするものも含めると、約400世帯に届けています。
 消費者のみなさんは、農薬や化学肥料を一切使わず、安全で安心できる野菜を育てる私たち(産直の会)に賛同し、信頼する人々です。
 正月野菜は、その消費者会員以外の、希望する世帯にも届けることにしていいて、今年は12月26日と27日に、東京、千葉、関西に届けます。
 私たち生産者は消費者と総会を持ち、相談し合って作付け計画を立て、作物を分担して作っています。ですから農地取り上げは、自分の生活だけでなく、有機農業・産直運動自体に深刻な問題をもたらします。長い間かけて積み上げてきた消費者の信頼を失いかねず、今後の提携自体にたいへんな打撃を与えることになるのです。
 南台と天神峰の農地には、それぞれ次のような事情もあります。
 南台の農地は、地番が41-8で、広さが約2反7畝ですが、その周囲は現在、千葉地裁(民事第2部)で争っている農地で囲まれています。
 空港会社が特定した、貸借関係の農地の場所は間違っていました。裁判所は関係文書の提出を命令しましたが、空港会社は拒否し、今も決着がついていません。今、南台41-8の農地を私から取り上げて畑を囲めば、その周囲の耕作もできなくなります。
 他方で、南台41-8を今取り上げたところで、誘導路を直線にすることはできないのであって、取り上げることに意味はありません。それでもなお強行するとすれば、それは私の農業を潰し、産直に打撃を与えて追い出そうという、嫌がらせための農地破壊です。
 天神峰の農地(天神峰78-2など)は私の家の前です。生活と営農の場そのものです。ここは南台の農地と同様に、大正時代の開墾から耕し続けてきた、かけがえの無い農地ですが、そればかりでなく農業にとって無くてはならない建物や施設、農機具があります。
 作業場(出荷場)、農機具置き場、野菜の貯蔵庫(コンテナや旧鶏舎など)、別棟(離れ:作付け会議や産直の寄り合いに使う)、ビニールハウス(2棟:育苗や苗床作り)、トイレなどです。
 農機具置き場には、トラクター(ロータリーや、鎮圧機、マルチ張り機、掘り取り機などの関連装置)、蔓切り機、管理機、田植機、バインダーなどがあります。また、鍬、鎌、鋤、シャベルやマルチ、育苗ポット、保冷庫、出荷のためのコンテナや、計測器具があります。ここは、また、配送のための産直トラック、軽トラック、乗用車の置き場所でもあります。
 要するに農業を営むためには、無くてはならない場所なのです。私は、今回、取り上げようとしている畑の他にも農地がありますが、天神峰農地を取り上げることは、それらを含めてまったく耕作できないようにされてしまうことになるのです。
 また、この天神峰農地には、空港敷地に接して真竹の林があります。激しい騒音と排気ガスから畑と家を守るために、2002年4月に暫定滑走路が供用を初めてすぐに植えました。これが畑と住宅を守っています。天神峰農地には祖父や父の代に植えた樫や紅葉、桜の大木が何本もあります。これらは夏の厳しい日差しを遮り、冬には北風を遮る屋敷林です。別棟(離れ)は、私が子どもの頃、父母や兄弟姉妹と暮らした思い出の場所です。
 天神峰農も南台農地も、私の農業と生活、人生の一切合財なのです。


3)空港一辺倒の無法地帯

 これまで裁判では、空港公団(現空港会社)が、父東市に隠して(同意を得ることなく)、底地を買収していたことが明らかにされました。その後、15年間に渡って地代を騙しとっていた事実も明らかにされました。
 南台農地については、民事第2部の裁判で、空港会社が特定した貸借契約の場所が違うことが明らかにされました。これに関する「境界確認書」「同意書」と添付図面が、空港公団の偽造であることが明らかにされました。そのことを示す関連文書を、裁判所の命令にも係らず、空港会社は隠し続けています。そのため、裁判は2006年10月20日に空港会社が起こしてから10年が過ぎても決着していません。
 最高裁の決定は、土地明け渡し裁判で前提となるはずの契約農地の場所についての裁判が決着しないうちに出された、まったく不当なものと、私は思います。
 今年3月、空港会社は芝山地先に3500メートルの新たな滑走路を造る計画を打ち出しました。空港を1000ヘクタール拡張し、600戸を強制移転させる計画です。空港建設でかつて移転させられた住民が、再度移転させられることもあります。
 また、B'滑走路を現状からさらに1000メートル北に延伸する計画が出されました。B'滑走路は、東峰地区住民の反対で、2002年に計画より短くして北側に移動して造られました。その後、2009年に北側へ延伸して2500メートルにされました。その上の1000メートル延伸です。空港会社は住民の命と暮らしについてまったく考えていません。
 さらに夜間の飛行時間制限を現行の7時間から4時間(午前1時〜5時)に短縮しようとしています。眠るための静かな時間はわずか4時間です。これらの手前勝手な拡張工事と騒音の拡大に対して、説明会では住民から強い反対と抗議の声が挙げられています。
 多くの犠牲者を出した空港建設の歴史を、国と空港公団は謝罪し、「二度と強制手段はとらない」「あくまで話し合いで解決する」と約束しました。しかし、私の農地の取り上げを含めて、この公約は踏み破られています。成田は空港一辺倒の無法地帯と言うしかありません。
 私の思いは、これからも天神峰で農地を守り、地道に働き続けることです。空港会社の不当な執行請求に対しては、あくまで闘う覚悟です。裁判所に対して、執行停止と異議の申立てを認めるように強く訴えます。

以 上

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