市東さんの農地問題

<突然の農地明け渡し要求>

市東孝雄(しとうたかお)さんは千葉県成田市で、親子3代、約100年にわたって農地を耕しつづけてきた農民です。父・東市(とういち)さんが1987年から有機完全無農薬の野菜づくりを始め、その後東市さんが亡くなられたため、1999年から家に戻り受け継ぎました。今では年間50種類以上の野菜を栽培しています。

ところが、2003年、農民として生きることに自信と誇りを感じることができるようになったころ、突然、成田空港会社(NAA)から、畑の明け渡しを求められました。「畑が暫定滑走路(B滑走路)の誘導路をじゃましていて、『へ』の字に曲げている。飛行機の運航が効率的でないから直線にする」、だから「畑をよこせ」というのです。
市東さんの畑はおじいさんが開墾したものですから、戦後の農地改革の時に、市東さんが所有者になっているはずの農地でした。しかし、父・東市さんの復員が遅れるなどの事情で、登記手続きが適切に行われず、いわゆる「残存小作地」(農地改革で自作地に転換されなかった農地)として、残された農地でした。実質的には市東さんの所有地なのです。

<耕作者に内緒の農地買収>

ところが空港公団(NAAの前身)は、「小作地として残された」ことに目をつけ、市東さんに内緒で名義上の地主から農地を買収し、15年もたった2003年になって、初めて土地の登記をして、市東さんに農地を明け渡せと迫りました。離作補償として1億8千万円を提示しましたが、市東さんが「この地で農業を続けるのが生きがいだ」「一本の大根を作って消費者の喜ぶ顔が見たい」と明け渡しを断ったため、NAAは農業と農民を守る趣旨の農地法を悪用して市東さんの農地を奪い取ろうと、2008年に裁判を起こしたのです。

<デタラメな空港会社>

以上の経過はことごとく農地法違反です。

さらに裁判が始まると、「明け渡せ」とする場所が違っていたり、NAAが出した唯一の証拠が偽造だったり、とんでもないデタラメが明らかになりました。何より農地と農民を守るべき農地法に違反した違法の数々が法廷の場で明らかにされました。
しかし、「国策裁判」を行う千葉地裁・多見谷(たみや)寿郎裁判長は、昨年7月29日、NAA勝訴の不当判決を下したのです。
この農地取り上げ以外にも、市東さんを追い出し反対同盟の闘いをつぶすために、NAAは数々の暴挙を行っています。
2013年3月7日に3本目の誘導路の供用を開始しました(2ページ写真参照)。写真のように市東さんの家を完全に空港の中に取り囲みました。さらに空港の24時間運用を画策して、騒音地獄を拡大しようとしています。飛行機からの落下物が相次いで生活を脅かしています。
これはひとり市東さんや反対同盟だけの問題ではありません。食と命を育む農業の価値こそが再認識されている時に、「農地法による農地の取り上げ」――こんなことを許すことはできません。TPP(環太平洋経済連携協定)や減反政策の廃止などの農業・農民切り捨てに抵抗する日本の農民みんなにかかわる問題です。

更新日: 2015年3月 1日

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