●WTO交渉が決裂、“農産物の国際分業は成り立たない”


  WTO決裂
     

■7月29日、2001年以来つづいているWTO(国際貿易機関)ドーハラウンド締結交渉がまたもや決裂しました。「ドーハラウンド」という名前はカタールの首都ドーハで、交渉が始まったことから来ています。その交渉の目的は農産物、工業製品の関税を大幅に削減し、最終的には限りなくゼロに近い値にすることにありました。

■いったんは「ほぼまとまるだろう」とのマスコミの観測も流れましたが、最終段階で、アメリカの提案に対して中国、インドが「農産物の緊急輸入制限を認める基準が厳しすぎる」として反発、決裂したものです。
■従来であれば、“唯一の超大国”アメリカの影響力で、アメリカ提案を飲ませることが簡単だったのですが、政治・経済・軍事の全面にわたる没落で、いわゆる「途上国」の反撃を押さえ込むことができなくなったのです。アメリカの利益のために矛盾を世界に押し付けるWTO体制の限界が露呈しました。
■同時にWTO交渉決裂は、農産物貿易の分野でWTOの「自由化理念」そのものが、限界に来ていることを浮き彫りにしました。WTOの理念は、効率の悪い国での農業生産はやめて、他の大規模農業国からの輸入でまかなえばいい、というものです。しかし、今年起きたことは食料の不足と値段の高騰で、基礎的な食料の輸入依存を強めていた貧しい途上国における食糧暴動の激発です。ちなみに、それらの食料の輸入依存が高まった理由は、IMF(国際通貨基金)や世界銀行による商品作物への強制的な作付け転換でした(「構造調整」という名の再植民地化です)。国際アグリビジネスのためのコーヒーのようなプランテーション農業への転換によって、従来自給できていた基礎食料作物が駆逐された結果です。
■さらに起きたたことは、コメ・麦・トウモロコシなどの穀物を中心に8カ国もの国による輸出規制でした。輸出国に輸出しない権利が認められるとなると、日本などの食料輸入国にも食料確保のための権利が生ずるということになります。つまり、農産物は自由貿易にはなじまない、ということが、実例で示されたということなのです。そして、WTO交渉自身がそのことを追認することになりました。「農産物をめぐって決裂」の背景にはこのような根本問題があったのです。
■WTOがだめだからEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)の2国間交渉が加速する、となっています。実際に加速するでしょう。しかし、EPAやFTAで補いえない部分がWTOにはあります。アメリカはじめ先進国にとってWTOの最大の「魅力」は強制力でした。WTOが協定文で認めれば、それは法律となって、参加153国に強制的な力となって働きます。どんな理不尽な決定でも「拒否」はできないのです。ここにWTOの最大の「利点」がありましたが、交渉決裂によって、またしもその有利さを確保できなかったということです。ここに先進国の危機があります。
■当面、2国間交渉が進むでしょうが、これ自身簡単には進まない上、締結はあくまで合意によります。強制することはできません。
■紆余曲折をたどりつつ、結局は資源や食料をめぐった奪い合い、囲い合いが進んでいきます。私たちはWTO反対、EPA・FTA反対、国内農業を守れのスローガンで前進していきます。そのためにも市東孝雄さんへの農地強奪攻撃を許さず、農地法改悪と対決していきます。

  

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