●農民の心と相容れない転落農政

  ――農地・農業を考える1210講演集会から(12月10日 千葉市)

講演する坂本進一郎さん
■市東孝雄さんの耕作権はく奪問題をきっかけに、政府の農業潰しが大変な勢いで進んでいることが改めて浮き彫りになった。「反対する会」の講演集会で講師として来てくれた坂本進一郎さんは、秋田の大潟村でコメを作る現役の農家。「今年はアキタコマチ(秋田小町)が1万1000円なんだよな」と半ばあきらめ顔で語っていたのが印象的だった。
■都会では「アキタコマチが1万1000円」と聞いてもピンとこない人がほとんどだ。コメ一俵(60キロ)の生産者価格のことで、「怒りを覚えるくらいべらぼうに安い」というのが常識的な百姓の感覚。なにしろ採算ラインが1万6000円。ここで収支はトントン。1万1000円ということは、「5000円札を米袋に貼り付けて出荷しているようなものだ」と坂本さんは唸(うな)るように語った。  

■十数年前まで、生産者価格は一俵2万円程度が相場だったから半値だ。採算割れである。赤字操業では息子に農業を継げとはいえない。生活できないんだから。なんでこんなことになったのか。コメは人の命を支える源だから、ただの商品であってはいけない。そういう考えで、生産者を守る手だてがかつてはあった。戦後長らく、コメ価格の下落防止を政府は農政の基本としていた。食管法体制といわれた。
■それを政府はここ20年ほどで完全に取り払ってしまった。「市場原理にまかせる」という例の言いぐさだ。海外のコメの方が安いなら、国内の農家が潰れても輸入に切り替えるべき。これが現在の農政の基本。コメは食糧ではなく商品となった。農家はあえいでいるが、大手のスーパーは格安のコメをうってほくほくである。
■この農政(暴政でしょ)を提言してきたのはトヨタ自動車を筆頭とする財界である。坂本さんのよれば「トヨタ1社の世界での年間売上が、日本の農民が全部束になって売り上げている金額と同じなんだよな」とのこと。「これを市場で比較すること自体がおかしい」。そうなんだよ! 農作物は自動車と同じ土俵の商品にしてはいけない! これが坂本講演のいいたい事だったように感じた。
■萩原進さんが壇上から農民運動の肝(きも)を語った。「コメは安い方がいいと思われている。ところがコメが安くなると労働者の給料が下がる。これが財界の狙いなんですよ。農家が潰れてしまった先にどんな社会が待っているというのか? 市東孝雄さんの問題は日本の農民全体の問題です」
■市東孝雄さんは語った。「1億8000万を積まれてるんだから(農地を取られても)いいじゃないか、と県の農地課の役人が言うんですよ。カネで何でも解決できるという今の世の中の風潮に、農業を守る立場の役人まで染まってる。土に生きる(農民の)心? 農業ってただ単にお金の問題ではないんです」「県内だけで毎月300件も農地が潰されている。本当にこれでいいんですか? いいわけがない。真剣に考える時ですよね」
     *
 来週から市東孝雄さんの農地をめぐる最初の裁判が行われます。毎日お米を食べて生活している皆さん! 裁判の傍聴に来てください。
 
 《記》市東さん耕作権裁判 初弁論(農地法による耕作権解除の攻撃とは別個に、畑の一部の不法な明け渡しを空港会社が要求している裁判です)
 12月18日(月)13:30〜 千葉地裁にて
 ※傍聴券を取るために、一時間前から並びます。

  

カテゴリーにもどる

           
  • News