●農水大臣の裁決は違法きわまる代物

――弁護団が声明を発表

葉山岳夫弁護士と一瀬敬一郎弁護士









1月30日、二期差し止め訴訟最終弁論後の報告会で、市東孝雄さんの審査請求に対する農水大臣の不当裁決について語る葉山岳夫弁護士と一瀬敬一郎弁護士

 千葉県知事による耕作権解除許可決定を不服とする市東さんの審査請求に対して、1月29日、農林水産大臣から不当な裁決が出されました。この裁決を弾劾し、裁決の違法性、不当性を明らかにし、徹底的にたたかうことを表明した弁護団からの声明が出されましたので、紹介します。(PDFファイル-140KBもあります)

2007年1月29日付農水大臣裁決の違法性、不当性

2007年1月31日

堂本知事の不当許可処分取消審査請求弁護団

1 堂本暁子千葉県知事の市東孝雄氏耕作地に対する賃貸借解約許可処分に対して、市東氏が提起した2006年10月17日付、松岡農水大臣宛審査請求に対して、同大臣は2007年1月29日付をもって不当裁決を下した。

2 裁決では、暫定B’滑走路がシカゴ条約と一体をなす国際標準に違反し、供用すべきでない事実を不問に付した上で、誘導路直線化のために本件農地を空港会社が収奪することについて「極めて具体性、確実性および公共性が高い」と誤った判断を下した。
すなわち、民家の40メートル上空にジェット機を離着陸させ騒音と恐怖を強制し、国際標準に違反する狭い着陸帯、整地帯、寸足らずの北側進入灯、ジャンボジェット機は通行できない坂道でカーブした狭い誘導路等は、解決できないため供用自体が違法である。B’滑走路および北側延伸のために市東氏の農地を取り上げること自体がきわめて不当である。

3 裁決は、平均年収の150年分を補償することを強調し、無農薬有機農法による代替不可能な農民の命ともいうべき農地を収奪することにつき、農民の権利を擁護すべき責務を放棄して、いわば札束で張り倒すやり口の空港会社に加担したものである。

4 農地法18条1項は、小作耕作権の対抗力について、戦前の地主と同様の小作地取上げを防止する趣旨で制定されたものであり、新地主に対しても引き続き小作地として賃借耕作できる趣旨に他ならない。
 農水大臣は、この趣旨を没却して戦前の地主同然に新地主(空港会社)からの許可を受けた解除の申出によって小作地を取上げることが可能とする誤りをおかしているものである。

5 裁決は、小作耕作権者を無視して底地権者(旧地主)と旧空港公団(現空港会社)が小作地の土地を売買することの無効性について、農地法5条の規定は小作権者保護の規定でないことを理由として否定した。まさに暴論というべきである。

6 しかも上記裁決は1988年3、4月に旧公団が旧地主から売買によって取得しておきながら旧地主が従前どおり地代を取得していたことの法律関係について旧公団と旧地主との間で2003年まで事実上、賃貸借もしくは使用貸借してきた事実までも何らの根拠なく否定した。
 旧公団は農地取得を秘密にする一方、旧地主は2003年まで15年にわたり市東家から小作料を取得していたのであるから、公団は旧地主藤崎、岩沢が地主としての権限を行使することを容認したことは、明白である。
 すなわち、一旦取得した農地を成田市農業委員会の許可を得ることなく違法に旧地主に使用賃借もしくは賃貸借したことは、明白である。公団と旧地主との間に書面による賃貸借契約書などがないこと等を口実にこの事実をあえて否定するのは最早法律による行政、および適正手続を放棄した違憲の判断というべきである。


7 裁決は、農地賃貸借解約許可請求権につき民法107条1項により10年経過による時効消滅を否定した。しかし、「法によって設けられた手続上の請求権」だと認定しても、時効による消滅の法理をまぬがれることは出来ない。
 時効制度は私法、公法を問わず適用されることは田中二郎博士のつとに明らかにしたところである(行政法総論246頁)

8 裁決は、知事の許可は農地法上の適格性を有するか否かのみを判断して決定すべきであるとの最高裁判決(昭和42年11月10日)に逃げ込んだ。しかしながら、空港会社が本件解約許可申請をなし得る適格性を有するか否かは農地法はもとより憲法29条、31条を含む法体系の中で厳密に判断されるべきは当然のことであり、上記判決に依拠することは判断の遺脱もしくは放棄である。

9 農地法は現況主義が大原則である。旧地主藤崎政吉が事実に反する図面を作成し、故市東東市氏の署名、捺印を得たとしても現に耕作している農地と異なる土地が記載された書面であって、故東市氏の意思表示は錯誤により無効である。
 従前から耕作してきた現況に基づくべきであり、その点で空港会社は市東宅前の天神峰78番については現況主義によっているのであり、南台の事例と矛盾する。
 まして藤崎と公団とは小作権者の賃借地を特定することなく、更地も小作地も込みで1988年4月12日41番全体につき売買契約を結び、その後1988年8月24日になって売り渡した藤崎が小作権者に無断で41-8、41-9を分筆して、この二筆が小作地だと勝手に決めつけたものである。

10 以上のとおり本件裁決は、農地法の趣旨を没却し、事実を誤認し、しかも判断を遺脱した違法きわまる代物というべきである。
 上記裁決は従前から耕作してきた現況を全く無視するものである。

11 農水大臣の不当裁決が出たので出訴要件が満された。弁護団は一層体制をととのえて、千葉地裁での許可処分取消訴訟を提起し、市東さんの農地取り上げに反対する会、反対同盟支援の皆さんと連帯して裁判闘争に勝利する決意である。

  

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